1.ロッド工法の変遷

 地盤注入は主に地盤の透水性を減少させたり、粘着力を増加させることを目的とし、改良対象範囲の土粒子間に自硬性の薬液をセットするだけの原理的にはきわめて単純なものであるが、その対象となる地盤は不均一異方性であるうえ複雑多岐にわたり、更に見えないところでの注入コントロールが効果の成否を左右する等きわめて難しい面が多い。
 計画に際して、改良範囲はいかにも型枠で囲まれたような形状で図示され、結果においても当然のごとく図ような固結状態が期待されるが、地盤中に型枠があるわけでもなく、結果は期待とかけ離れる場合が少なくない。
 最近は、効果の不確実さゆえに「単管ロッド工法」は特殊なケースを除いてほとんど用いられなくなり、また地盤隆起を併発しやすく改良効果にムラが生じやすい「二重管ロッド瞬結工法」に代わって、瞬結グラウトと緩結グラウトを複合して用いる「二重管ロッド複合注入工法」が主流になりつつある。

止水目的注入の検証

 地盤強化が目的の場合は改良形態はラフに考えても差し支えないことが多いが、止水を目的とする場合はくまなく浸透した固結状態で、且つ連続していて改良ムラのないことが要求される。
 注入薬液としては土粒子間隙の地下水(自由水)を追い出す形で細部にまで浸透させる必要性から、通常は懸濁粒子を含まない低粘性の溶液型薬液を用いる。
 1本の注入は単位ステップの積み重ねであり、当然各ステップ毎の固結体の品質が注入効果を決定することになるので単位ステップについて詳細に検証してみる。

ロッド周囲の処理

 削孔が終り、これから注入を開始しようとする地盤は例にもれず不均一異方性である。 ロッド先端周囲は、削孔時のスライムアップで緩み最大の弱点になっているから注入開始直後の薬液はまずロッドに沿って上昇する。
 この薬液をゲル化させて(ゲル待ち)この弱点を閉塞(グラウトパッカー)することが注入の第一段階である。( 図−1)

後続して注入される薬液の挙動

 その後注入される薬液が1ステップ目の目標領域内に浸透し始めることになるが、ここで浸透性のみを重視して、いきなり緩結グラウトを用いた場合、地盤は前述のとおり不均一異方性であり、薬液の流動はゲルタイムを経過するまでは阻止されないことから、次々に注入される緩結グラウトは一部は浸透しながらも抵抗の少ない相対的弱点に沿って偏って走り易い。 目標領域内に異なる土性の境界層が存在する場合、この境界層は最大の弱点になり、逸脱傾向は増長されることになるから特に注意を要する。
 地盤が不均一異方性である限り、浸透が透水性の大きい部分に偏ることは避けられず、定量(ステップ当り注入量)を注入し終わった時点で、目標領域外に逸脱した分は目標領域内で不足を生じさせ、結果として目標領域内に未改良部分を残すことになり、この状態では止水目的は達成されないことになる。( 図−2)

ゲル待ちインターバル操作

 そこで地盤内の不均一異方性に起因する逸脱傾向を抑制するために可能で有効な手段として、少量注入しては注入を中断し薬液が流動しなくなるまでゲル待ちして、また少量注入してはゲル待ちするいわゆるインターバル操作を繰り返す方法が考えられる。
 ところが緩結グラウトではゲル待ちの時間ロスが多すぎて現実の作業にならない。
 時間ロスを少なくするためにはゲル化後早急にグラウトパッカーとしての強度が発現される瞬結グラウトが望ましい。

単管ロッド注入工法の衰退

 しかし、単管を用いる1.5 ショット方式では瞬結グラウトは使えず、緩結グラウトではゲル待ちの時間ロスが非常に多くなる上、注入管を詰めないようにタイミングよくゲル待ちを行う操作自体が非常に難しく、熟練者がこれに全神経を使っても失敗することが多かった。
 単管ロッド注入工法がすでに用いられなくなった主な理由はここにある。

二重管瞬結工法の台頭

 時間ロスの問題と難しいゲル待ち操作の問題を解決するための試行錯誤の中から必然的に生まれた2ショット方式の二重管ロッド瞬結工法(単相式二重管ストレーナー工法)が単管ロッド注入工法に代わって多く利用されることになった。
 二重管を用いることによって瞬結グラウトの使用が可能になったため、難しいゲル待ち操作をしなくてもインターバル操作同様の効果がいとも簡単にしかも自動的に発揮されることになり、時間ロスの問題が解決されると同時に、連続して注入しても逸脱傾向は抑制されるという一石二鳥の効果によるところが大きい。

瞬結注入の問題点

 瞬結グラウトの注入によって固結体が成長拡大していく過程は、後続して注入される薬液が一旦できた固結体の中を割裂し或いはこの割裂脈に沿って部分的に浸透(割裂浸透)して固結体のまわりに順次外殻を形成していく形態の繰り返しである。(図−3)

 この固結体の性質は注入工学的には粘性土と類似しており、透水性地盤への注入であっても、瞬結グラウトが自ら周辺を粘性土化させるため局部的には粘性土に対する割裂注入のメカニズムが働くことになり、地盤の変状を引き起こしながら次々と外殻に新たな相対的弱点を形成する。
 連続して次々に注入される薬液は割裂浸透を繰り返しながらもこの弱点に集中してどこか一か所を突き破り、更に外側の領域へと割裂脈を連鎖的に延ばしていく。(図−4 )
 局部的に薬液が集中する割裂脈では瞬結グラウトといえどもゲル待ち効果は弱まり、割裂脈の形成は加速されることになり、そのまま注入を続行するとやはりその形は歪になりがちで注入管から離れるほど改良ムラの多い状態になる。 二重管瞬結工法の出現によって時間ロスの問題と難しいゲル待ち操作の問題はある程度解決されたものの、瞬結グラウトの注入を続行するだけで完璧というわけにはいかず、地盤を変状させやすいことと、その結果改良ムラも発生しやすいという新たな問題がクローズアップされることになった。

加圧脱水現象

 瞬結グラウトの注入を続行する過程で、割裂脈と拘束地盤に挟まれる固結体は相当の力で圧縮されることになる。(図−5 )
 その際、土粒子間をマトリックスするホモゲル内部に、粘性土の強度増加メカニズム同様の加圧脱水作用が働く。ホモゲルは加圧脱水されることによって体積は減少するが強度は増加する。その結果注入充填率は高まることが分かってきた。
 この加圧は地盤が変状しない範囲では注入充填率を高めるのには有効であるが、無理な加圧は有害な地盤の変状を引き起こすことになるから注意を要する。

複合注入への移行

 地盤を変状させやすく、改良ムラも発生しやすいというこの問題は瞬結グラウトの注入を中断し、一旦ゲル待ちを行い、緩結グラウトに切り替えるいわゆる複合注入の手法によって意外に簡単に解決できることが分かった。
 緩結グラウトは土粒子間に浸透した後ゲル化するので、瞬結グラウトと異なるメカニズムによって容易に拘束地盤に浸透させることができる。
 先行注入された瞬結グラウトによって弱点は充填強化され、同時に割裂脈周辺は圧密されて不均一異方性はかなり改善されているので、複合注入における後続緩結グラウトの浸透は、歪になりがちな固結体の形を修正しながら先行瞬結グラウトによる改良ムラを埋め尽くす形で固結径を拡大成長させていくことに寄与する。(図−6)
 瞬結の浸透メカニズムと緩結の浸透メカニズムをうまく組み合わせ分担させる複合注入の手法は目標限定領域内に無理なく、無駄なく、ムラなく薬液を収めるいわゆる確実性をより向上させるためにとりわけ有効であることが実証され、現在では地盤注入のほとんどは複合注入に代わりつつある。複合注入の課題
 瞬結グラウトと緩結グラウトの異なる性質を利用して機能を分担させる複合注入の手法によって確実性を向上させ得ることは分かったものの、まだ完成の域に達したとはいえず、いまだに瞬結グラウトから緩結グラウトへの切り換え時期並びに瞬結グラウトと緩結グラウトの使用比率や注入速度に関しての合理的な指標は示されていない。
これらの問題の解決がこの「二重管ロッド複合注入工法」に残された課題である。

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